出版権と電子書籍の配信

 2015年10月、東日本大震災の復興予算で経済産業省が電子化した6万5千冊の書籍のうち、少なくとも約1,700冊が配信できず、市民が利用できない状況となっていることが会計検査院の調査で判明しました。

 具体的には、経済産業省の「コンテンツ緊急電子化事業」に基づき、被災地支援のため、一般社団法人日本出版インフラセンターが補助金を受け、出版社が申請した書籍の電子化を東北の事業者に委託することで「書籍の電子化」を行ったものの、そのうち約1,700冊について、著作権者からインターネット配信の許諾が受けられなかったというものです。

 ここで注意すべきは、「従前からの出版契約では、書籍は紙媒体で印刷・出版することしかできず、当然には電子書籍化してインターネット配信することはできない」という点です。

 

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したがって、原稿を電子書籍化してインターネット配信するには、出版社は、別途、著作権者から「公衆送信の許諾」を受ける必要があり、今回は、この許諾を受けられなかったために、インターネット配信できない事態が生じました。

一方、「従前からの出版契約では・・・」と言いましたが、今後は、「インターネット配信を含んだ出版権の設定(出版契約)」が可能です。

具体的には、平成26年著作権法改正(平成27年1月1日施行)により、出版権の内容として、①従前通りの「紙媒体」での印刷・出版に加え、②インターネット配信による出版(電子出版)も認められることとなり、出版社は、①又は②の一方又は双方を内容とした出版契約を結べるようになりました(①と②を分けて各別の出版社と契約することも可)。

 

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 従前も、著作権者から「公衆送信の許諾(利用許諾)」を受ければ、電子書籍化・インターネット配信が可能でしたが、通常、「利用許諾に基づく利用権」は「独占排他的な権利ではない」ため、著作権者本人や他社による(同一原稿に基づく)インターネット配信を差し止めることはできませんでした。

一方、「出版権」は、「独占排他的な権利」ですから、「インターネット配信のための出版権」を設定することにより、著作権者本人や他社によるインターネット配信も差し止めることができます。

なお、この改正法が施行される前に締結された出版契約のままでは、当然には「インターネット配信による出版権」は認められませんから、必要に応じ、この権利を含めた出版契約を改めて結び直す必要があります。(塩島)