政府決定の「インターネット上の海賊版サイトに対する緊急対策」とは?

★緊急対策の概要

 2018年4月、内閣府の知的財産戦略本部(本部長:内閣総理大臣)における犯罪対策閣僚会議において、「インターネット上の海賊版サイトに対する緊急対策(提言・方針。以下「当決定」とします。)」が決定されました。
 当決定は、他人の著作権等を侵害し、又は侵害行為を幇助(ほうじょ=手助け)している「海賊版」のうち、特に「アクセス数」及び「被害額」が多いマンガ・アニメ(動画)サイトに対する緊急対策ですが、当決定のポイントは、以下の3点となります。

  1. 特定のWebサイトを3つほど「名指し」している。

  2. 法整備前であるが(臨時的かつ緊急的な措置として)、民間事業者(ISP=インターネットサービスプロバイダなど電気通信事業者)に対して、上記3つのWebサイト(これと同一とみなされるサイトを含む)に対するブロッキング(閲覧遮断措置)を求めている。→政府も必要な体制整備を急ぐ。

  3. 広く国民レベルでの著作権教育の重要性を訴えている。

当決定の全文はこちら → https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/kettei/honpen.pdf

★問題の所在

 上記ポイントのうち、特に「1と2」は、一定の根拠・指針を示してはいるものの、政府の決定としては踏み込んだものであり、「海賊版対策」の重要性は認めるものの、法的根拠がないまま「民間事業者」に「特定のWebサイトへのブロッキング」を求めることについては、「憲法や電気通信事業法が保障する表現の自由や通信の秘密(注1)に照らし問題がある」として、関係団体や識者からは当決定に反発の声も出ています。
 なお、「表現の自由」は、「国家権力との関係」で保障されるもので、「個人や民間事業者」間の行為では、原則として問題となりません(いわゆる「自主規制」も許されますが、「政府方針に従う」という点で問題となり得ます)。
 一方、「通信の秘密」については、国家権力との関係はもちろん、一定の職業にある者や民間事業者の行為にも当てはまり、犯罪捜査など法定された場合のほか、本人の同意や、契約関係にある者であれば契約内容や約款(規約)に定めがない限り、これを侵すことはできません。
 当決定を受け、大手ISPが「ブロッキングを行う方向」と発表したところ、出版業界など権利者側からは「歓迎する」という声が上がる一方で、「電気通信業法で定められた通信の秘密の侵害に当たる」として反対の声も上がり、さらに民事訴訟も提起されるに至っています。
 当決定は、このまま行くと、法整備より先に民事訴訟による司法判断を仰ぐことになりそうです。

(注1)「ブロッキング」は、ISPが、「その取扱中の通信の宛先を検知」して当該通信を遮断する行為であることから、電気通信事業法4条1項に照らし、原則として「通信の秘密の侵害」に該当します。

★海賊版対策は、どこから始めるべきか

 現行の著作権法では、インターネット上で巧妙化する海賊版(特に直接的にはコンテンツの無断複製をしていないWebサイトや国外で運営されているWebサイト)を直接規制することは難しく、そのために当決定がなされるに至っています(「海賊版」の定義もあいまいです)。
 ブロッキングの根拠となる具体的な法整備が待たれますが、法整備までには、法案作成から国会審議など相当の時間を要します。
 そうなると、当面は、正しい著作権知識に基づく「利用者のモラル」と「事業者の自主規制(注2)」に委ねるしかありませんが、著作者や出版社など「権利者側」も、「利用者にとって便利なコンテンツの提供・課金方法」を用意する必要があります。
 「表現の自由・通信の秘密」も大事ですが、「著作権」も、憲法で保障される財産権の1つであり、いずれを犠牲にすることもできません。
 相対立する意見が存在する場合には、「どちらが正しいか」という勝ち負けではなく、「互恵関係」という観点から解決を模索することが大切です。
 「ユーザーは著作者(作品)を尊重し、著作者もユーザーを尊重する」という考え方こそが、海賊版対策に最も不可欠な要素であると考えます。(塩島)

(注2)自主規制は事業者(1社)のみではリスクが大きいため、「事業者団体」など業界全体で歩調を合わせることが大切です。また、既に利用者との「契約・約款」により事業を運営している場合には、規制内容と契約・約款の内容との整合性にも注意が必要です。

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